過剰性の無意味

本書はエスプリが随所に効いている。

低成長にもかかわらず激しい市場競争を行えば、一国のなかでも格差は開き、国家間でも格差は開くであろう。そして人々の不満は、民主主義を通して、政治の場へと移しかえられる。かくして政治そのものが不安定化するであろう。

また今日の経済は、技術革新のおかげで巨大な生産力を持っている。もしも人間の欲望の「増加」が、生産力の増加に追いつかなければ、経済の間の問題とは、「稀少性の解決」へ向けた問題ではなく、「過剰性の処理」へ向けた問題となる。

我々は「不確実な将来」に向けて、価値を「保蔵」しなければなならい。保蔵のために「経済成長」は必要だが、現在のグローバル下では、「成長という過剰生産」を強いられるだけで、それが無意味な、不確実な投資に向かい、老朽化や本当の意味での不確実(災害・不況)に保蔵(蓄え・備え)が向けられないのである。

 

参考

「経済学の思考法」     佐伯啓思 著