孤立無縁の臨床(場の理論)

本書は秀逸である。

哲学は理解することを求め、世界観を与えることに努めるが、他方、精神分析にとって、単に世界は存在しないのであり、重要なのは理解するということではまったくない。

重要なのは、何よりもまして、聞くことである。

精神分析は哲学のような普遍的なものを目指すものではなく、他の何よりもそれぞれの症例の特異性とうまくやっていかなければならない。

それゆえ精神分析に一貫した理論的コンバースが確かにあるとしても、優先されるのは臨床である。

だからこの理論的コンバースは、象徴システムの再編成にしたがって文明が登場させる新しい臨床例に適合しながら、決定的に開かれたままのものであり続ける。

それゆえ臨床は、意味を世界と実存に対して授与することを慎むのである。

しかし、現実にはこの乖離が実は、孤立無縁の天才的創造を非合理な現実に対して、何かを施してしているのではないかと考えることは、まるっきりおかしなことではないように私には思われる。

 

参考

現実界に向かって」     二コラ・フルリー 著